「資質・能力」と学びのメカニズム

 以上、有意味学習、オーセンティックの学習、明示的な指導という、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための3つの事業づくりの原理について見てきました。
 三つの原理は、理念的にはそれぞれに独立してはいますが、実際の授業づくりやカリキュラム作りという営みにおいては、複合して用いたり、組み合わせて用いたりします。
 まずもって、子供の既有知識を足場に学びを生み出すという有意味学習の考え方は、すべての授業づくりの規定に位置付くものです。オーセンティックな学習でも明示的な指導でも、この原理は適用されるべきですし、もちろん適用可能です。
 また、明示的な指導が真に奏功するためには、オーセンティックな学習経験のあることが必須の要件になってきます。本物の社会的実践に近い、自分事の豊かな学習経験があるからこそ、その1段抽象化した意味をたとえ教師がリードして抽出し手渡したとしても、なお子供たちはそれを自分の宝物と感じることができるのです。

「資質・能力」と学びのメカニズム

 その意味で、今こそ教科内容研究が決定的に重要です。それは、高校の教材やその取り扱い方を検討する教材研究より一段奥にある、教科内容そのものの研究です。そんな作業があるということ自体、すでに若い世代は知らないかもしれません。しかし、その教科ならではの「見方・考え方」を学力論の規定に据える以上、この作業はもはや不可欠です。P187

「資質・能力」と学びのメカニズム

 もしかすると、教科の得意・不得意のかなりの部分は、この点に行をするのではないでしょうか。なぜなら、この統合的概念化に成功した途端、バラバラとたくさんのことを勉強してきたと思っていたその教科が、ある一環した発想なり原理で世界を眺め、枠付けて理解しようとしていたのだということが晴れ晴れと見えてくるからです。そして、膨大な領域固有知識が一握りの概念や方法論で手際よく構造的に整理できることに気づくでしょう。P186

「資質・能力」と学びのメカニズム

 いかに科学的な原理に則った実験や観察であっても、単に数多く経験しただけでは、科学的な「見方・考え方」や方法論を身に付け自在に繰り出せるようになるには、なお不十分です。さらに、表面的には大いに異なる複数の学習経験を俯瞰的に眺め、そこに共通性と独自性を見出し、ついには統合的な概念的理解に到達する必要があると思うのです。
 興味深いことに、その教科が得意な子供は、この統合的概念化をいつの間にか自力で成就しています。同じ教室で実験に取り組んできたのに、その経験が単なる個別的な実験の記憶にとどまっている子供がいる一方で、そこから科学とは何かを高度な水準で感得し、さらにはそれらを理科とは異なる対象や領域、例えば社会的事象の検討にまで上手に活用する子供がいるのです。P185

「資質・能力」と学びのメカニズム

 本来異なるカテゴリーに属する者同士を独自の視点や理論により大胆に「つなげる」「見立てる」「例える」といった思考の様式、かつてレヴィ=ストロースが「野生の思考」と呼んだものが豊かに作動しているのです。P134

「資質・能力」と学びのメカニズム

 教育学では、カリキュラムには3つの編成原理があると考えてきました。その第一は「文化遺産の継承・発展」、第二には「社会現実への対応」、第三は「子供の求めの実現」です。P118

「資質・能力」と学びのメカニズム

 学校教育と社会の関係をめぐっては2つの考え方があると、教育学では整理されてきました。
 1つは、その時代の社会が要請する人材を過不足なく適切に供給できるよう、社会の変化に遅れることなく、しっかりとついていくのが学校教育の任務であると言う考え方であり、社会的効率主義、社会的大主義などと呼ばれてきました。
 もう一つの考え方は、教え・育てた子供たちが次世代の社会を主体として創出するという筋道を介して、学校教育は社会の変化を先導して生み出すと言うものであり、社会改造主義ないしは社会改良主義と呼ばれています。P112